LoRa®/LoRaWAN®ネットワーク
LoRa®・LoRaWAN®とは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)向けのLPWA(Low Power Wide Area)無線通信技術の一つです。低消費電力で長距離通信が可能なため、バッテリー駆動が求められる監視・制御対象が広範囲に点在するようなユースケースに最適です。大井電気では2013年のLoRa®デバイスのリリース以降、自社開発・製造のLoRa®・LoRaWAN®製品を数多くリリースしています。
● LoRa®・LoRaWAN®の特徴 ● LoRa®・LoRaWAN®の主なユースケース ● LoRa®とLoRaWAN®の違い ● LoRaWAN®のネットワーク構成 ● 大井電気のLoRa®・LoRaWAN®製品ラインアップ |
LoRa®・LoRaWAN®の特徴
特定小電力無線の使用により低コストでの運用が可能
日本でLoRa®・LoRaWAN®を使用する際には、周波数として主に920MHz帯を使用します。この周波数帯は特定小電力無線と呼ばれる周波数帯の一つであり、規格(ARIB STD-T108)に準拠した機器を購入するのみで免許を取得したり使用料を支払うことなく誰でも自由に使用することができます。
このことから、端末1台1台に回線使用料が発生するLTE等の通信方式と比較して、運用コストを低く押さえることが可能です。
低消費電力での運用が可能
LoRaWAN®の通信を利用するデバイスは消費電力を抑えた実装が可能です。
LoRa®変調を行うIC自体も低消費電力なデバイスですが、「LoRaWAN®」の規格では、端末の運用形態に応じてクラスA・クラスB・クラスCの3つの受信待ち状態を規定しており、送信・受信以外のほとんどのタイミングでスリープ状態になるクラスAおよびクラスBのモードでは、端末全体の消費電力を抑えた運用ができます。
このことから、通信頻度やバッテリー容量などの条件にもよりますが、LoRa®・LoRaWAN®は外部給電無しにバッテリーのみで数年間稼働するといった低消費電力での運用が可能です。
【LoRaWAN®におけるクラスA・クラスB・クラスCの違い】
クラス | メリット | デメリット | 電源条件 |
クラスA | ・消費電力が低い。 | ・下り方向(GWからEDに向けて)の通信タイミングが限られる。 ※上り直後の応答の下りのみ。 | ・バッテリー運用 ・常時給電から選択可 |
クラスB | ・消費電力が低い ・下り方向の通信のタイミング等の制約がクラスAよりも緩い。 | ・技術的な制約が大きい。 ※GW、EDでクラスB対応が必要。 | ・バッテリー運用 ・常時給電から選択可 |
クラスC | ・通信タイミング、頻度の制約が無い。 | ・常時給電前提 | ・常時給電前提 |
長距離通信が可能
無線通信であるため地形や障害物、アンテナ高などの諸条件に左右されますが、大まかに都市部であれば1~2km、見晴らしの良い郊外であれば5km程度の通信距離を期待できます。
また、LoRaWAN®では通信距離・通信速度(実効データレート)ごとにSF(Spreading Factor)と呼ばれるパラメーターが設定されており、センサーデータ等の少ない情報量であれば通信速度を落とすことで通信距離を延ばすといった設定が可能です。
当社導入実績では約15kmの通信距離で運用している機器もあり、点在した屋外インフラの監視等に最適です。
強いノイズ耐性
LoRa®・LoRaWAN®で用いられる無線変調方式「LoRa変調」は、強い耐ノイズ特性を有しており、SF12という最も長距離通信が可能なモードではSNRで-20dBまで許容可能です。
また、特定小電力無線に関する日本国内規格(ARIB STD-T108)に準拠しており、920.6Mhz~923.4MHzまでのチャンネルのうち8チャンネルをランダムで使用すること、キャリアセンス機能により送信時には当該チャンネルが空いていることを確認してから送信することから、周囲のノイズに左右されにくい無線通信を実現します。
オープンな規格により柔軟なシステム構築が可能
LoRaWAN®の規格に準拠しているエンドデバイスおよびゲートウェイは、異メーカー間の製品でも相互に接続が可能です。
LoRaWAN®プロトコルの普及促進を目的とした非営利団体である「LoRa Alliance」の製品紹介ページに掲載されているだけでも600種以上のエンドデバイス・ゲートウェイがあり、用途に合わせてエンドデバイス・ゲートウェイを選定することで柔軟なシステム構築を実現します。
LoRa®・LoRaWAN®の主なユースケース
屋外インフラ監視
河川や洋上、山頂といった屋外環境に設置されるインフラは商用電源を使用することが難しいため、バッテリーや太陽電池を使用して対象設備・機器を長期間監視する必要があります。また、こうした環境は通信キャリアのエリア外であることも多々あります。
低消費電力で長距離通信が可能であるという特徴を活かし、LoRa®・LoRaWAN®がこのような屋外インフラの監視に活用されています。

ガス・水道検針
ガスメーター・水道メーターは、従来は検針員が1~2月に1回各戸を個別訪問して指針値を読み取っていました。現在、これが少しずつ通信技術を使用した遠隔検針に切り替わり始めています。
ガスメーターは10年、水道メーターは8年(いずれも家庭用)といった長期間にわたり同一のメーターが使用されるため、指針値をネットワークに送信する通信端末も同じく長期間バッテリーのみで稼働する必要があり、低消費電力なLoRa®・LoRaWAN®が活用されています。

環境センシング
環境センシングとは、温度、湿度、大気汚染、騒音、振動などの環境データをリアルタイムで測定・収集し、分析する技術であり、住環境やオフィス・工場の労働環境の改善、食の安全の実現といった様々な分野で活用され始めています。
センシングのためには大量のセンサーを導入する必要がありますが、設置性やランニングコストの問題からバッテリーによる長時間駆動が求められ、低消費電力性を備えるLoRa®・LoRaWAN®が最適です。LoRaWAN®の通信機能が一体となった様々な環境センサー製品が既に市場に存在します。
スマート農業
農業では農業従事者の高齢化や人手不足、気候変動といった理由によりIoTやAI、ロボット技術などを活用したスマート農業技術の重要性が高まっています。
センサーにより収集した情報をもとにした水やり・施肥・農薬散布・収穫といった各種作業のタイミングを最適化や、バルブ開閉やハウスの温度調整といった制御に、低消費電力・長距離通信を強みを活かしてLoRa®・LoRaWAN®が採用されています。

工場等の機器・設備監視
工場では生産性の向上や労働環境の改善に様々なIT技術が活用されていますが、LoRa®・LoRaWAN®もその一つです。特定小電力の920MHz帯を使用することで、他の無線に影響されにくく、LoRa®方式の優れた受信特性からゲートウェイ一台で広いエリアを構築可能です。
生産装置の稼働状態の監視や、タンクの残量検知や機器の振動モニタリング、温湿度監視やアナログ計器のデジタル化などにLoRa®・LoRaWAN®が活用されています。
LoRa®とLoRaWAN®の違い
LoRa®とは米セムテック社が開発した無線通信の変調方式(LoRa変調方式)を指し、OSI参照モデルにおける物理層に該当します。「LoRa」とだけ記載されている場合はただ単にLoRa変調方式を指すことがほとんどです。
一方で、LoRaWAN®はLoRa変調方式を使用した通信プロトコルを指します。LoRaWAN®の普及・標準化を目的として設立された非営利団体「LoRa Alliance」によって策定・管理されており、LoRaWAN®に準拠したエンドデバイス・ゲートウェイ間であれば相互接続が可能です。
LoRa(変調方式)に対応していても、各メーカー独自の通信プロトコルで実装されている場合は「プライベートLoRa®」と呼ばれ、LoRaWAN®とは区別されています。プライベートLoRa®の場合、同じ通信プロトコルが実装されていれば相互接続が可能ですが、メーカーが違ったりして通信プロトコルが異なる場合、相互接続ができません。
LoRaWAN®のネットワーク構成

LoRaWAN®のネットワークは、エンドデバイス・ゲートウェイ・ネットワークサーバー・アプリケーションサーバーの4つで構成されています。
エンドデバイス
エンドデバイスは、LoRaWAN®ネットワーク上でセンサーや監視対象機器からの情報を収集し、LoRa通信によりゲートウェイに送信するデバイスです。また、アプリケーションサーバからの制御通信をゲートウェイを介して受け取り、制御対象機器に受け渡します。
エンドデバイスはセンサー等と一体となっているタイプもあれば、LoRa通信機能のみを持ち、デジタル接点入出力、アナログ入力、RS-232C、Bluetoothといった汎用的なインターフェースでセンサーや各種機器と接続するタイプもあります。
ゲートウェイ
ゲートウェイは、LoRaWAN®ネットワークにおいてエンドデバイスとネットワークサーバーを橋渡しする中継器です。複数のエンドデバイスからのLoRa通信を集約し、LTEやEthernet等のIP通信にてネットワークサーバーに送信します。
設置環境(屋内・屋外)、電源(PoE・ACアダプタ・ソーラー等)、ネットワークインターフェース(LTE、Ethernet等)など、様々なバリエーションがあります。また、大井電気ではLoRa通信の成功率向上に寄与するアンテナダイバーシティーに対応した機種をラインアップしています。
ネットワークサーバー
ネットワークサーバーは、LoRaWAN®ネットワークにおいてエンドデバイスとゲートウェイの挙動管理を行います。エンドデバイスのネットワーク認証、複数のゲートウェイで受信した同一エンドデバイスからの同一パケット廃棄、アプリケーションサーバからの制御通信送信の際のゲートウェイの選択などが主要な機能です。
大井電気のLoRa®SPN対応製品の様に、ネットワークサーバーをゲートウェイ本体に内蔵したタイプもあり、この場合は独立してネットワークサーバーを構築する必要がありません。
アプリケーションサーバー
アプリケーションサーバーは、LoRaWAN®ネットワークにおいてエンドデバイスから収集したデータの蓄積・表示・分析、またエンドデバイスに対する制御通信の生成を行います。
構築するLoRaWAN®システムに求められる機能要件により多種多様であり、汎用的なIoTプラットフォームのようなものもあれば、機能要件に応じてスクラッチで開発するものまであります。
大井電気が提供する3つのLoRa®ネットワーク
LoRaWAN®

大井電気では、各種センサーや機器からのデータをLoRaWAN®ゲートウェイに送信するLoRaWAN®エンドデバイス、LoRaWAN®エンドデバイスからの情報をネットワークサーバーに送信するLoRaWAN®ゲートウェイを自社で開発・製造しています。LoRaWAN®プロトコルに準拠しているため、いずれも他社製エンドデバイス・ゲートウェイと接続が可能です。
LoRa®SPN

LoRaWAN®では、ネットワークサーバと呼ばれるゲートウェイ・エンドデバイスを管理するサーバーが必要になります。このネットワークサーバーの機能をゲートウェイ本体に内蔵したのが、LoRa®SPN(LoRa Small Private Network)対応ゲートウェイです。
エンドデバイスは自社製・他社製問わずLoRaWAN®準拠のエンドデバイスが使用可能である一方、対応ゲートウェイを準備すれば、別途ネットワークサーバーを構築することなくLoRaWAN®エンドデバイスを使用したネットワークをスピーディーに構築が可能です。
PoC(Proof of Concept)や小規模システムでの利用に最適ですが、アプリケーションの実装次第では中・大規模システムにも応用可能です。
LoRa®P2P

LoRaWAN®規格には準拠せず、大井電気独自プロトコルにより対向でLoRa通信を行う端末をLoRa®P2P(LoRa Peer to Peer)として提供しています。
一対一の対向通信が基本となりますが、アプリケーションの実装次第では一対他の構成も可能です。大井電気独自プロトコルのため他社製端末との相互接続はできませんが、ピンポイントで特定の区間を無線化したいといったニーズでの使用に最適で、LoRa®SPNよりもさらに初期投資コストを抑えた実装が可能となります。